MamyukkaさんのM3-2020春新譜「エトイリカの夜」。
夜の妖精たちと花の妖精たちの物語。我らが真夜中の王子の道征き――。
ということで今回は妖精たちをテーマにしたファンタジー、そして恋の物語。
最初に特設ページとジャケットを目にしたときにはダークな内容なのかなと想像していたのですが、いざ聞いてみれば主な背景として描かれるのはひっそりとした夜の森中であるものの、内容は美しい恋の物語で、詞を読みながら聞き入るうちに歎息してしまった。
(Mamyukkaなので)メロディーのよさや装飾、ボーカルトラックの多彩さ・巧みさは最早言うまでもないのですが、今作については、いつに増して歌詞の表現で唸るところが多かったのが印象的でした。
さて、一旦トラックリスト。
01 ネ・ミラティラ
02 エトイリカの夜
03 イトワミエ
04 君が泣く花園
05 夜と薔薇のピレカ
06 妖精たちの昔話
大きな構成としては2曲ごとに3分割されていて、夜の妖精サイドを描いた「ネ・ミラティラ」と「エトイリカの夜」。花の妖精サイドを描いた「イトワミエ」、「君が泣く花園」。両サイドを越境する「夜と薔薇のピレカ」「妖精たちの昔話」という感じ。
まずは夜の妖精サイド。ひっそりとした森の中、粛々と歩み進める真夜中の王子とその隊列。その情景や随伴する臣下達が丁寧に描写されているおかげで入り込め方が凄い。あれは歌詞のない曲だけど「深海エレベーター」ぐらい没入できた…(超褒め言葉)。しかしめでたい婚礼へ向かう場面だというのに、密やかで不穏な感じを漂わせているのは夜の妖精としての特性なのか、それとも本来交わらないような花の姫君との結婚を果たす為には夜の一族から放逐されるような、その特質を失う故に先行きを心配するような気持ちが篭められているのか。
というか今回、造語がガッツリ使われているので解釈しきれないところがあるのだけど、「エトイリカ」≒「翅閉じ」は(多分)合ってるとして、さらに ≒「王子の名前もしくはその一呼称」ってことでいいのかなこれ。かなりざっくり妄想を働かせると、①夜の王子が花の姫君と恋をした ②結婚までをも考えたが種族(お互いの生きる世界(時間))の違いというハードルを越えるのは難しく、代償(儀式的な)が必要だった ③それが「翅閉じ」であり、それを決心したことで王子そのものも「翅閉じ」≒「エトイリカ」と呼ばれるように、みたいな? そう読めば「翅閉じの夜」は儀式であって、「翅閉じの門出」は王子の門出の日であるという感じで読めるかなぁ、と。うーん、言ってること変かも…。
さて、気をとりなおして花の妖精サイド。花の姫君を取り巻く世界が最初に描かれます。昼日中に息づく花たちが日暮れとともに寝静まるものの、それは特別に恐れるようなことではなく、今度はヨルガオやイエライシャン、ジャスミンのような夜こそ花開き、香りを強くする花たちが周囲を取り巻く。(つまり、花の姫君って夜の王子と対称的な昼の世界の存在ではあるけれど、厳密には時間帯で活動を制限される存在ではないんですよね。あくまで"定め”。だからこそ王子側で物々しい決断が必要になるのではと。)
そして夜の森の中で(幼い頃の)王子と出会うわけですが、もうここの詞が美しすぎて…。
暗闇に金色の瞳が浮かぶどんな花よりも煌めいてきょとんと見上げる顔の涙を拭った
正直、夜の妖精だからってこの肌の黒さはちょっとやり過ぎなのではと思っていたりしたのですが、この幻想的で美しすぎる情景描写が生み出されたのならもう全てOK! という気持ちになりました。こんなの好きになるだろ。そしてそこから時を経た後の、恋を歌う詞もまたよくて ↓ 昼を象徴する花の姫君が、夜の王子にひだまりを感じるとかエモ過ぎる…。
太陽と共に起きては眠る花の定めに背いてあなたに恋をした背が伸びたあなたを見上げるその度優しいひだまりを知るわ
ここに到るまで、着手時に想像していなかったほどにキーボードを叩いてしまったのですが、実は本作通して一番好きなのが5曲目「夜と薔薇のピレカ」です。最初歌詞を見ずに通して聞いたときの第一印象では「天体カタログ」を思い出すいい曲だなぁという感じで、それだけでも自分の中では最高評価に近かったんですが、改めて歌詞と装丁上の演出を踏まえると、そこを更に踏み越えるレベルで推せ過ぎる一曲となりました。一曲の中で主語に合わせて「花の妖精の書」と「夜の妖精の書」をまたがるような演出と、白と黒のコントラストの使い方が感動的に美しい。今回、他の曲もそうですが、ゆったりとした中でも体が動いてしまうようなキャッチーなメロディー(リズム?)が散りばめられていて、いやほんとMamyukkaって聴いてて飽きることがないよなと…。
しかし、ピレカってどういう言葉なんだろう。「ユウゲショウの朝食」では明らかに「ユウゲショウの“ピレカ”」って言ってるものの、タイトルに朝食を持ってくるわけない気がするから、もっと広く「夜が明けた先の翌朝」的な概念だとは思うんだが。最後の最後、「二人だけの明日」は「二人だけの“~~ピレカ”」なんだよね。作中で使われている謎文字も多分、アルファベットや五十音の置き換えじゃない気がしていて、やはり未羽さんの造語設計レベルの高さゆえに妄想の余地がありすぎるよなと、一旦挫折…。妖精といえばケルト語圏な気がするものの、自分が詳しくないのでそれで読み解けるわけではない悲しみ。